Interview

子どものためのオーダーメイド家具「空(kuu)」 地方創生プロジェクト 丨 laboratory株式会社 様 インタビュー

laboratory株式会社
種別:オーダー家具
地域:埼玉県所沢市
創業年:2004年3月

ソーシャルインテリアは、新品ブランド家具をサブスクリプションスキームで提供することから始まり、現在では「よいものを長く使う、循環社会の実現」をミッションとして掲げ、様々な切り口で空間の提案を行っています。

そのうちのひとつである地方創生プロジェクトは、日本全国で家具を循環させることを目的に、私たちが常に問い続ける「よいものとは?」「家具の循環とは?」の本質を、家具の利用を通して皆様に少しでも触れていただけるよう、家具ブランドの歴史背景と職人の仕事に迫ります。

この度は、弊社でお取り扱いしている子ども家具ブランド『空(kuu)』を立ち上げたlaboratory株式会社 秦 憲一郎 様 にインタビューさせていただきました。

ブランドページ:https://subsclife.com/list/br-200107

laboratory株式会社 取締役社長 秦 憲一郎 様

ものづくりの過程も共にする

ものづくりの過程も共にする
ものづくりの過程も共にする

laboratory(ラボラトリー)は、木工家でデザイナーの田中英一が創業して、もうすぐ20年になります。
注文家具全般を手掛けていて、創業当初は個人宅のテーブル類、店舗の什器など、引き合いがあるものを何でも作らせて頂いていました。

無垢材は東北地方から材料を仕入れて、埼玉の工房で加工して、直接お客様のもとへお届けする、というコンパクトなサイクルを作っています。

時には製材所にお連れして、丸太から製材する様子を見学に出掛けたり、加工前の材料を一緒に選ぶところから始めたり、やはりそのプロセスを楽しみたいという方とお取引をしています。
お客様が法人の場合も同じです。保育園では、園長先生や子どもたちも工房に遊びに来ます。
エンドユーザー様と直接関係を持って、一緒にこの場から創り出していくことが特徴です。

今はどこでもすぐに物が手に入る時代ですが、オーダー家具の場合は完成まで半年〜1年もの時間をかけてお付き合い頂くことも多い点で、本当に家具にこだわりたいという想いが強い人たちと、一緒にものを作っているイメージです。

laboratoryが大切にしている考え方

現代の日本では残念ながら、注文家具屋はゼネコンをトップとした建設業界ピラミッドの末端の存在です。
ほとんどの家具屋さんは短納期・低コストの中でものづくりをしている状況です。でも本来はデザインや精度、仕上がりが日々の暮らしに直結するという意味で、高度な技術と経験を要する仕事です。
ヨーロッパにおけるマイスター制度やアルチザンへのリスペクト文化には、日本も学ぶべきことが多いと感じます。

若い世代は産業を、先人たちがどういうふうにものづくりをしているかという目で見ているので、そこに魅力や将来性を見いだせないと、どうしても先細りになってしまいます。
あと、職人(アルチザン)が子どもから見てカッコ良い存在じゃないといけないとも感じます。
お客様がどういう暮らしがしたいかという視点からお話を聞き、家具の専門家として関わっていくことで、生産者>消費者という一方通行ではない関係性を築くことも大切だと考えています。
大量生産大量消費の時代は過ぎ去り、これからは人と人の顔の見える価値交換があたりまえになりつつあります。
だからこそ、この「注文家具工房」という形態を守っています。

一方で、原材料の仕入れから加工、販売まで一貫して行っている分、明確な原価管理を行っています。
製品ひとつひとつに、工房が活動を続けるための一定の基準に基づいた経費と利益を計上し積算を行うので、お客様に求められれば、何にどれくらいの金額がかかっているかを明確に伝えることも可能です。これは原材料1点1点を棚卸管理するなど、相応の手間をかけているからこそできることだと思います。

使う人の思いが形になるまで

laboratoryでは、デザインありきのオリジナル製品を提供することはあまりありません。
クライアントとの会話、やり取りの中から生まれるオーダー家具であることがほとんどです。

保育園や幼稚園の場合、園長先生や保育士さんから「どんな子どもを育てたいか」「椅子や机を使って子どもにどんな時間を過ごしてほしいか」ということをお尋ねします。
姿勢良くご飯の時間を楽しんでほしい。お絵描きなど遊びの時間に夢中になって取り組んでほしい。
など様々な思いや希望が寄せられそれをもとに形づくるため、10園あれば10通りのデザインができあがります。

お話しているうちに、お客さまが当初求めていた具体的なプランから、全く違うものができていることもあります。
本当に何を求めているのかは自分が一番よく分かっていない、ということもありますよね。
ソファが欲しいと言っても、「こんなくつろぎ方をしたい」という視点を整理すれば、結果として欲しいものは、ソファではない何かかもしれません。

何を食べ、どういう暮らしをし、どういう子育てをしたいか、という思いと、日常肌に触れる家具やカトラリーは、とても密接な関係です。
作って提供しているものがまさに暮らしに身近なものなので、私達自身の日常も大切にしています。
そういうこともあって、暮らしと仕事がつながる職住一体/職住近接の里山を、活動拠点にしています。

ちゃんと壊れる椅子?

10年以上前、デザイナーの田中がまだ自身の子どもがいない時期にも関わらず、子ども椅子の制作を始めました。
試作した小さな椅子をいくつかの保育園へ持参したところ、文字通り門前払いだったそうです。

意見を聞きながら改良を重ね試作開発を続けることで、今では多くの園で使って頂くことになり、累計8000脚ほどを保育園幼稚園へ納品、今日も子どもたちがその椅子と共に過ごしています。

「ちゃんと壊れるいす」とうたっているのは、ものはいずれ壊れることが前提だからこそ、万が一壊れても直せるように、最初から作っているという意味です。
実際にはとても丈夫なのでなかなか壊れません(笑)。これまでに8000脚以上を保育施設に提供していますが、十数件しか修理事例はありません。

物はいずれは朽ちたり壊れたりするものです。
床に投げるとか乱暴に扱えば壊れるとか、物の扱い方や距離感を小さい頃に学ぶことはとても大事です。同時に、「壊れたから捨てましょうね」としか伝えられない大人ではありたくない。
直したり、磨いたり、かつては樹木であった木製品と向き合うことは、子どもにこそ伝えてあげたい気がします。
そんな「ものとの幸せな付き合い方」を、親御さんや保育士さんを通して多くの子どもに伝えていけるきっかけになれば良いなと思います。

生まれてから最初にふれる木

子ども用の製品は、カトラリーという一番小さな木製品から、椅子やテーブル、造り付けの造作家具まで、無垢材、合板材、サイズの大小にも全くとらわれず、お作りしています。

ファーストスプーンは、日本の森の恵みを受けて、職人により丁寧に削り出される「お母さんの指先のようなやさしいカタチ」で、初めて乳首以外のものを含む赤ちゃんに最適です。
(2009年キッズデザイン賞を受賞しました)
木は体感温度が人肌に近く、口に入れた際に違和感が少ない素材です。
また、赤ちゃんに安心を届けるだけでなく、片手が塞がっていて置いてもさじ面がテーブルにつかないなど、用途の面でもお母さんにも優しい形になっています。

たくさんの実体験を通して育ってほしい

デジタルネイティブ世代の子どもたちは、日常的に様々なデジタルコンテンツを楽しみ、子育てに関わる私自身、親としてその快適さと便利さの恩恵に与っています。
ただ、大人に与えられたゲームや動画コンテンツなどの仕組みの上に遊ぶだけではなくて、身の回りや自然界から遊びや面白みを発見できる人になって欲しい。

そんなこともあり、私自身最近アナログなおもちゃや木育のことを学んでいて、おもちゃインストラクター、木育インストラクターという資格認定を受けました。
木育とは、子どもが日常的に木材と触れ合うことで、再生可能な資源である森林や樹木、そこから受けている水資源の恩恵、資源循環といった私たちが持っている宝物のことを、学習ではなく生活の中から伝えていこう、という取り組みです。
もっと簡単に言うと、木肌の気持ち良い家具やおもちゃにたくさん触れましょう。
できれば何かをそこから感じ取ってもらい、心の原風景にしてもらえると良いな。
と言う感じです。

一生の中で、とても心の育つ幼少期。
デジタル時代が加速しますます便利になる今だからこそ、触るもの、使う物に思い入れを持って接することで実感できる、もうひとつの豊かさのベクトルがあるように感じます。
手入れをしたり磨いたりと、そこには面倒もついて回りますが、大切な家族の時間がちょっと豊かになる、そんな製品とその届け方を模索し続けたいと思います。

捨てる、買い換えることを前提としない物の使い方は、これからどんどん進めば良いと思います。
生ゴミはコンポストへ、木製品やおもちゃは磨いて修理して、使わなくなったらこれから必要な人へ、と「ものを捨てない保育園」があっても良いですよね。

ヨーロッパの旧市街や、京都に代表される古都の町並みは、なぜ何百年もその姿を保ち続けているかと言うと、社会全体でその価値を支えているから。
子どもの育ちを、保育士さんだけではなく社会全体から支える。そんな視点で見ると私たちの活動も意義を帯びてくるかも知れませんね。

laboratoryについて

埼玉県所沢市の狭山湖のすぐ近く、四季折々の表情を楽しませてくれる里山にて職住一体の暮らしをしながら広葉樹無垢材を中心に、オーダー・オリジナル作品を制作。
金具を使わない昔ながらの工法、手鉋仕上げに思い入れ、生涯をともにできる家具や木製食器をデザインから提案しています。

2003年活動開始
2004年laboratory株式会社設立
2009年離乳食用木製さじ「ファーストスプーン」が第3回キッズデザイン賞を受賞」
2010年ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ「ファーストスプーン」が 日本APEC展示事業「JAPAN EXPERIENCE」に出品
アトリエ『母屋』完成 活動拠点を埼玉県入間市より埼玉県所沢市へ移す
2011年内装家具、遊具を企画・デザイン・制作した「グローバルキッズ荏原町保育園」が第5回キッズデザイン賞を受賞
2014年内装家具を企画・デザイン・製作した「かなや幼稚園」が第8回キッズデザイン賞、グッドデザイン賞2014、子ども環境学会デザイン奨励賞ほか受賞
2016年ギャラリー『むすひ』完成  内装家具・遊具を企画・デザイン・製作した「グローバルキッズ飯田橋園・飯田橋学童クラブ・飯田橋こども園」が第10回キッズデザイン賞を受賞
2017年内装家具を企画・デザイン・製作した「わんぱくすまいる保育園」が第11回キッズデザイン賞を受賞
2019年内装家具を企画・デザイン・製作した「あいわ保育園」が第13回キッズデザイン賞を受賞
2021年内装家具を企画・デザイン・製作した「まちのてらこや保育園」が第15回キッズデザイン賞を受賞

laboratory株式会社

本社・アトリエ・ギャラリー
〒359-1164
埼玉県所沢市三ケ島1-257-1
Tel:070-3833-3986 fax:04-2937-4677
mail:musuhi@labo-style.com

会社HP:https://labo-style.com/

空(kuu)について

国産無垢材による子ども用の木製家具・カトラリーを中心に、
無駄を廃し機能美を追求したイノセントなアイテムを展開。

会社HP:https://labo-style.com/kuu/

編集後記

取材 / 執筆:Azusa Kurabayashi

埼玉県の主要駅から車で数分の狭山湖に近い場所にあるアトリエ。敷地には工房の他に、庭に苔むす旅館のようなギャラリー、ヤギのいる木材置場があります。
温かみのある木で構成された建物やインテリアはもちろん、収納の在り方、スリッパの素材、お茶の淹れ方、ひとつひとつにこだわり尽くしたおもてなしの心に背筋が伸びました。
趣のある雰囲気は非日常でありながら、お話いただいた内容は日頃忘れがちな本質を問われるような鋭さがあり、五感を通して自然と共存するために大切なことを思い出すことができます。
呼吸と気持ちが整うだけでなく、子どもの頃のようにとてもわくわくする場所であるので、ぜひいろいろな人に体験してほしいと思います。
お忙しいところとても良いお話をお聞かせいただき本当にありがとうございました!!

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